消費税の「簡易課税制度」とは?そのメリットとデメリット

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更新日 2020年6月12日

簡易課税制度とは

まずは基本的な消費税計算をおさらい

まずは、基本的な消費税の計算方法をおさらいしておきましょう。 簡易課税制度を適用せず、消費税を原則通り納める方法を「原則課税方式」と呼びます。 その最も基本的な形が、以下の計算式です。

消費税の基本的な計算式
受け取った消費税 − 支払った消費税 = 納付する消費税
※ 支払った消費税 = 仕入控除税額

事業者は、ものやサービスを売るときに、消費者から消費税も受け取ります(受け取った消費税)。 一方で、事業をすすめる上では、仕入れや運営費用などで支出をする際に、消費税を払う面もあります(支払った消費税)。 事業者は、この差額を税務署に納めるわけです。>> 消費税の基本

上記の「支払った消費税」のことを「仕入控除税額」と呼びます。 簡易課税制度においては、この「仕入控除税額」をおおまかな計算で済ませることができます。

「簡易課税制度」とは?

簡易課税制度とは、消費税の「仕入控除税額」を「みなし仕入率」によって計算し、 簡易的に算出することができる制度のことです。 この制度を適用すれば、事業者が納付する消費税の計算が簡単になります。

仕入控除税額とは?
仕入控除税額とは、消費税を計算する時に、売上などで受け取った消費税から差し引く税額のこと

通常の消費税計算では、仕入れや経費で実際に支払った税額が「仕入控除税額」となります。 しかし簡易課税制度では「受け取った消費税 × みなし仕入率」で算出された額を「仕入控除税額」とします。 簡易課税方式では、消費税計算において、実際に支払った消費税を考慮する必要がないわけです。

簡易課税方式での最も基本的な消費税計算
受け取った消費税 − (受け取った消費税 × みなし仕入率) = 納付する消費税

これが、簡易課税制度での最も基本的な計算式です。 複数の事業を展開している場合には、計算方法がやや複雑になります(後述のデメリットを参照)。

「みなし仕入率」とは?

簡易課税制度の計算式で「みなし仕入率」という言葉が出てきました。 業種に応じたおおよその「仕入控除税額」をもとめるために、この「みなし仕入率」が定められています。

業種とみなし仕入率(2019年10月1日〜)

業種みなし仕入率
第一種事業(卸売業)90%
第二種事業(小売業、食用品を扱う農林水産業)80%
第三種事業(鉱業、建設業、製造業、食用品を扱わない農林水産業)70%
第四種事業(料理飲食業など)60%
第五種事業(金融業、保険業、運輸業、通信業、サービス業)50%
第六種事業(不動産業)40%

簡易課税制度 - 国税庁

計算例

たとえば「サービス業」で、売上とともに預かった消費税額が「200万円」の場合で、計算例をみてみましょう。 この情報を先ほどの計算式に当てはめます。

簡易課税方式での最も基本的な消費税計算
受け取った消費税 − (受け取った消費税 × みなし仕入率) = 納付する消費税

200万円 − (200万円 × 50%) = 100万円
この場合、事業者が税務署へ納付する消費税額は100万円です。
>> 簡易課税制度の計算に関する詳細はこちら

簡易課税制度を適用する要件

簡易課税制度を適用するには、以下の要件があります。

  • 前々年の課税売上高が5,000万円以下であること
  • 簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出すること

前々年の課税売上高が5,000万円超の事業者は、簡易課税制度を適用できません。 つまり、小規模事業者のための制度なのです。 法人の場合は、前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下であることが要件です。

個人事業主が簡易課税制度を適用するには、前年のうちに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署へ提出しておく必要があります。 例えば、2020年分の消費税を簡易課税方式で計算したい場合は、2019年のうちに申請を出しておく必要がありました。

簡易課税制度を適用するメリット・デメリット

メリットデメリット
  • 消費税の計算が簡単になる
  • みなし仕入率を利用するので、納税額で有利になる場合も
  • 仕入税額控除のための帳簿づけが必要ない
  • 税負担が増す場合もあり
  • 2年間継続の必要あり
  • 複数事業の場合は売上を区分する必要があり、計算がかえって面倒になる場合も
  • 売上を区分できていなければ最も低いみなし仕入率を適用となる

簡易課税適用のメリットについて

簡易課税制度では、その名の通り消費税の計算が簡易になります。 この計算では、仕入れや経費で支払った消費税を考慮する必要がありません。 「みなし仕入率」によって、受けとった消費税から差し引く消費税を決定するため、 実際に仕入れなどで支払う消費税額が少ない事業者にとっては有利になります。

例えば、コンサルタントなどの知識労働で、必要経費の支出が少ない場合、 サービス業等のみなし仕入率50%で計算すると、消費税の納税額で得をします。

簡易課税適用のデメリットについて

みなし仕入率によって計算をする(支払った消費税は考慮しない)ので、 実際には必要経費をたくさん使って消費税を還付されるような場合でも、還付を受ける事ができません。

この制度を適用すると、基本的に2年間は実額計算による計算方法に戻すことができません。 とりやめる場合にも届出を提出する必要があります。 (ただし、課税売上高5,000万円超になれば原則課税方式になりますし、1,000万円以下となれば、また免税事業者に戻れます。)

また、みなし仕入率は取引単位で判定する必要があります。 複数の業種にまたがって事業運営している事業者は、課税売上を事業ごとに区分けする必要があります。 この場合は、かえって経理作業が煩雑になる場合があります。

>> 簡易課税制度の計算方法について
>> 消費税の基本をおさらい
>> 個人事業主の節税方法まとめ