売上はいつの日付で計上する?実現主義と計上基準
更新日 2024年7月16日
個人事業主向けに、売上を帳簿付けする日付について解説します。売上の計上タイミングは「実現主義」にもとづいて考えます。必要経費は「発生主義」にもとづいて計上するのが基本ですが、実現主義では発生主義よりも計上時点を慎重に考えます。
発生主義と現金主義のおさらい
実現主義の話をする前に、まずは「発生主義」と「現金主義」の違いをおさらいしておきましょう。
収益や費用を計上するタイミング【発生主義と現金主義】
発生主義 | 現金主義 |
---|---|
収入や支出の原因になる 経済的事実が発生した日付 | 実際にお金が動く日付 (入金や出金がある日付) |
例えば、商品の取引が5月10日で、実際にその代金を受けとったのが6月30日だとします。 発生主義の場合は、5月10日の日付で売上高を計上します。 現金主義の場合は、6月30日の日付で売上高を計上します。 簡単にいうと、これが発生主義と現金主義の違いです。
このように「発生主義の考え方では、売上高を計上するのは取引の時点で、お金を回収したときではない」ということが分かっていれば、ひとまずは大丈夫です。ただ、業種によっては「売掛金の発生基準をどこにおくか」という細かな議論が必要になり、その落としどころとして「実現主義」があります。
白色申告・青色申告では「発生主義」にもとづいて必要経費を計上します。 青色申告で現金主義の特例を適用された場合にだけ、現金主義による帳簿づけが認められます。
実現主義とは?
必要経費は「発生主義」にもとづいて計上するのでした。しかし、売上も「発生主義」で計上すると、未実現の(貨幣的な裏付けがまだない)売上まで計上してしまう可能性があるので、売上に関しては「実現主義」にもとづいて計上します。
- 実現主義とは?
- 実現主義とは、発生主義的な考え方のひとつで、収益の認識を、収益が実現した時点まで遅らせるという会計上の原則。税法上の「権利確定主義」に該当する。
収益の計上時点 - 発生主義と実現主義
発生主義 | 実現主義 |
---|---|
経済的事象の発生や変化にもとづき、その時点で収益を計上 | お金や役務提供(商品の引渡しなど)の実現にもとづき、その時点で収益を計上 |
言い方を変えると、「発生主義」ではまだ実現していない利益(例えば、まだ確定していない売掛金)まで計上するという事が起きうるので、こうならないために「実現主義」を適用します。
その年において収入すべき金額は、年末までに現実に金銭等を受領していなくとも、「収入すべき権利の確定した金額」になります。
収入金額とその計算 - 国税庁
売上は実現主義、経費は発生主義
まとめると、必要経費などのマイナス項目は発生主義の考え方で漏れなく計上し、 売上などのプラス項目は実現主義にのっとって確実なものだけを慎重に計上しようという事です。
白色申告・青色申告 | 青色申告(現金主義) | |
---|---|---|
収益 | 実現主義 | 現金主義 |
費用 | 発生主義 | 現金主義 |
収入は実現主義、支出は発生主義ということについて、もう少し掘り下げてみましょう。 これは企業会計原則のひとつ「保守主義の原則」にもとづいています。
- 保守主義の原則とは?
- 「保守主義の原則」は、収益をできるだけ確実なものだけ計上し、費用は漏らさずに計上しようという考え方。たとえば、まだ確実でない売上まで計上すると、税額を余分に多く確定してしまう恐れがある。このような事態にならないよう、経営の安定を優先するのが目的。
企業会計原則に法的な拘束力はありませんが、これは法人だけでなく、個人事業主も従うべき考え方とされています。
発生主義 | 実現主義 | 現金主義 |
---|---|---|
価値形成時点 | 販売時点 | 入金時点 |
発生主義・実現主義・現金主義を、ビジネスでものを売る場面に対応させると、それぞれ価値形成時点・販売時点・入金時点だと表現することができます。
売上の計上基準の種類について
では、実現主義における「販売時点」とは、具体的にいつのことを指すのでしょうか? 個人事業者や法人は、以下のような売上の計上基準から、 自分たちの業態にあった合理的な基準を採用することができます。
主な収入基準の種類
出荷基準 | 相手先へ納品が完了したか否かに関わらず、商品を出荷した日 |
---|---|
引渡基準 | 商品や製品を引き渡した日・納品した日 サービス業であれば、サービスを提供した日 |
検収基準 | 納品先が商品を検収した日 |
割賦基準 | 割賦販売をした場合に、その割賦日が到来した日 |
契約基準 | 契約書で決めた日 |
多くの業種で採用されており、最も一般的なのが「引渡基準」です。 例えば、飲食業や小売業、製造業、デザイン業、コンサルタント業などで引渡基準が採用されています。
基本的に、収入や費用の計上時期は、その原因となる経済的事実(例えば、収入であれば商品の引渡し、費用であればサービスの購入等)が発生した時点を基準とする必要があります(つまり、支払いを受ける権利や支払いの義務が発生した時点が基準となります。)。
初めてみませんか?青色申告 - 国税庁
この計上基準については、継続的な適用を行う必要があります。 計上基準を頻繁に変更すると、利益操作・租税回避とみなされ、税務調査の際に指摘されます。 当期は「引渡基準」で売上を計上し、翌期は「検収基準」で計上する、という具合に計上基準をコロコロ変更してはいけません。
複式簿記の帳簿づけ例
10,000円の商品を売り上げて、2023年12月25日に納品完了。 実際に事業口座へ入金があったのは2024年1月31日。計上基準が「引渡基準」の場合。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
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2023年12月25日 | 売掛金 10,000 | 売上高 10,000 | 商品A |
この場合、まずは商品の納品をした日付で、売上高を計上します。 つまり、この取引で得る売上は、2023年の収入にカウントするわけです。 まだお金は受け取っていないので、借方には「売掛金」の勘定科目をつけておきます。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
2024年1月31日 | 預金 10,000 | 売掛金 10,000 | 商品Aの売掛金回収 |
次に、実際に入金のあった日付で、売掛金の回収を記録します。 売掛金の状態であった資産が、預金に変わったという仕訳です。 なお、この取引における売掛金は、1回目の仕訳とは反対側に記帳することにより消滅します(入金消込)。
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