所得税の損益通算を分かりやすく - 損益通算できる所得とできない所得
更新日 2024年7月10日
所得税の損益通算とは、一定の所得に損失(赤字)が生じ、他の所得に利益(黒字)がある場合、 順序に従って利益と損失を合算できる制度のことを指します。
損益通算できる所得とできない所得
所得税法上、所得は10種類に区別されています。下記が10種類の所得です。 この中で、損失が出た場合に、損益通算できる所得とできない所得があります。
10種類の所得
- 利子所得
- 配当所得
- 不動産所得
- 事業所得
- 給与所得
- 退職所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
例えば、不動産所得で赤字であれば、他の所得が黒字の場合に損益通算ができます。 しかし、仮に配当所得の計算上で損失がでても、他の所得と損益通算することができません。
赤字になったら差し引ける所得 | 赤字になっても差し引けない所得 |
---|---|
|
|
利子所得と退職所得は、所得金額の計算上で赤字になることはありません。 つまり、そもそも損失が出ない所得なので、この2つは損益通算のしようがない所得とも言えます。
損益通算できる所得の例外
赤字になったら差し引ける所得(損益通算できる所得)であっても、山林所得以外は、例外となる事項があるので注意しましょう。 下記のものは、赤字が出ても損益通算できません。
損益通算できる所得 | 例外となる事項 |
---|---|
不動産所得 | 土地・建物などの取得にかかる借入金の利子 |
事業所得 | 株式などにかかわる事業所得の損失 |
譲渡所得 | マイホーム以外の土地・建物・株式など、申告分離課税の譲渡所得 |
損益通算を行うにあたっての注意点
- 趣味や娯楽、保養などの目的で保有する資産の譲渡に関しての損失は、他の所得から差し引くことはできない(ゴルフ会員権、別荘などの不動産、30万円をこえる貴金属、骨とう品など)
- 申告分離課税の「株式等に係る譲渡所得等」の損失がある場合、「株式等に係る譲渡所得等」以外の所得との損益通算はできない
- 申告分離課税の「先物取引に係る雑所得等」で生じた損失がある場合は、「先物取引に係る雑所得等」以外の所得との損益通算はできない
- 譲渡所得で、居住用資産以外の土地建物の譲渡で損失が生じた場合、「土地建物等の譲渡所得」以外の所得との損益通算はできない
「経常所得」と「非経常所得」の区別
損益通算をする上では「経常所得」という概念を知っておくと理解が進みます。
- 経常所得 → 定期的に収入が得られる所得
- 非経常所得 → 定期的ではなく、一時的に得られる所得
10種類の所得を「経常所得」と「非経常所得」にグループ分けすると、下表のようになります。 後に説明する計算の都合上、本記事では非経常所得をAとBに分けて、説明を進めます。
経常所得 | 利子所得, 配当所得, 不動産所得, 事業所得, 給与所得, 雑所得 |
---|---|
非経常所得A | 一時所得, 譲渡所得 |
非経常所得B | 山林所得, 退職所得 |
経常所得・非経常所得を、赤字になったら差し引ける所得・赤字でも差し引けない所得に分類したのが、下表です。
赤字になったら差し引ける所得 | 赤字になっても差し引けない所得 | |
---|---|---|
経常所得 | 不動産所得, 事業所得 | 利子所得, 配当所得, 給与所得, 雑所得 |
非経常所得A | 譲渡所得 | 一時所得 |
非経常所得B | 山林所得 | 退職所得 |
損益通算の順番 - 4つの段階に分けて計算する
損益通算の計算は、大きく分けると4段階で行います。
- 経常所得の損益通算
- 非経常所得Aの損益通算
- 経常所得と非経常所得Aの通算
- 非経常所得Bから差し引き
1. 経常所得の損益通算
まず、経常所得内での損益通算を行います。 経常所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得の6つでした。 (下表で「経常所得」の行を参照)
赤字になったら差し引ける所得 | 赤字になっても差し引けない所得 | |
---|---|---|
経常所得 | 不動産所得, 事業所得 | 利子所得, 配当所得, 給与所得, 雑所得 |
非経常所得A | 譲渡所得 | 一時所得 |
非経常所得B | 山林所得 | 退職所得 |
この中で、赤字になった場合に差し引くことができるのは、不動産所得と事業所得だけですね。 つまり、不動産所得と事業所得に損失があった場合には、 他4つの経常所得の利益から、不動産所得と事業所得の損失を差し引くことができます。 (例外となる事項を除く)
- まずは経常所得内での損益通算
- (利子所得 + 配当所得 + 給与所得 + 雑所得) − (不動産所得 + 事業所得)
例えば、利子所得、配当所得、給与所得、雑所得の合計が800万円だったとします。 この800万円から、不動産所得の損失150万円と事業所得の損失200万円を差し引くことで、 経常所得内の所得合計額は、450万円になります。
2. 非経常所得Aの損益通算
次に、非経常所得Aの中で損益通算を行います。 この場合、赤字になったら差し引ける所得は、譲渡所得だけですね。 そして、対象になるのは一時所得だけです。(上記の表で「非経常所得」の行を参照)
- 非経常所得Aの中で損益通算
- 一時所得 − 譲渡所得
ここでは、一時所得から、譲渡所得の損失を差し引くことになります。 例えば、一時所得がなく、譲渡所得の損失が200万円だった場合は、 マイナス200万円が、非経常所得内の所得合計額になります。
3. 経常所得と非経常所得Aの通算
経常所得と非経常所得Aのどちらかに、なお損失があった場合、 この2つのグルーブで損益通算をすることができます。
- 経常所得と非経常所得Aの損益通算
- 経常所得 − 非経常所得A or 非経常所得A − 経常所得
先ほどの例でいうと、経常所得の中での通算が450万円、 非経常所得Aの中での通算がマイナス200万円だったので、2つのグループを通算すると、プラス250万円になります。
4. 非経常所得Bから差し引き
2つのグループを通算しても、なお損失がでる場合には、山林所得の黒字から差し引くことができます。 それでもなお損失が残る場合は、損失分を退職所得から差し引くことができます。
- まずは山林所得。次に退職所得。
- 山林所得 − 赤字分
これでも、なおマイナスになる場合は↓
退職所得 − 赤字分
損益通算の特例について
マイホーム譲渡の特例
通常、土地や建物などの資産の譲渡所得は、損益通算することができません。ただし、自分の住んでいる家屋や敷地(所有期間5年超)の譲渡や、新たに借入金による買い替えを行った場合は、特例が認められています。一定の要件を満たせば、これらのマイホームの譲渡損失について損益通算を行うことができます。 マイホームの特例 - 国税庁
上場株式などの「譲渡所得」と「配当所得」の損益通算の特例
「上場株式の譲渡損失」と「上場株式の配当所得」との間で、損益通算が認められています。ただし、損益通算できるのは、「配当所得」について「申告分離課税」を選択している場合に限られます。また一定の要件を満たしている必要があります。上場株式の譲渡損失 - 国税庁
損益通算のまとめ
経常所得・非経常所得を、赤字になったら差し引ける所得・赤字になっても差し引けない所得に分けると、下表のようになります。(ただし冒頭で記載の通り、赤字になったら差し引ける所得といっても、例外事項があるので注意しましょう。)
赤字になったら差し引ける所得 | 赤字になっても差し引けない所得 | |
---|---|---|
経常所得 | 不動産所得, 事業所得 | 利子所得, 配当所得, 給与所得, 雑所得 |
非経常所得A | 譲渡所得 | 一時所得 |
非経常所得B | 山林所得 | 退職所得 |
損益通算の計算には、定められた順番があるので、それに基づいて計算を進めていきます。 計算の上でマイナスの所得がなければ、単純に合計すればOKです。
順番 | 計算式 |
---|---|
1 経常所得の損益通算 | (利子所得 + 配当所得 + 給与所得 + 雑所得) − (不動産所得 + 事業所得) |
2 非経常所得Aの損益通算 | 一時所得 − 譲渡所得 |
3 経常所得と非経常所得Aの通算 | 経常所得 − 非経常所得A or 非経常所得A − 経常所得 |
4 非経常所得Bから差し引き | 山林所得 − 赤字分 これでも、なおマイナスになる場合は、退職所得 − 赤字分 |
青色申告の場合は、損益通算を行ってもなお赤字になる場合、3年間の繰越控除ができます。 赤字を3年繰り越せるわけです。会社員の人も不動産所得などで損失が出た場合には、給与所得との通算が可能です。
>> 総合課税と分離課税の違い - 申告分離課税と源泉分離課税
>> 青色申告のメリット・デメリット
>> 10種類の所得を分かりやすく解説