個人事業主の節税方法 - 経費と所得控除を増して税金を減らす

更新日 2024年7月28日

個人事業主の節税方法

個人事業主の主な節税方法をまとめました。収入から「必要経費」や「所得控除」を差し引いたものが課税所得になるので、この「必要経費」や「所得控除」を増やすのが節税の基本です。

まずは所得税の計算方法をおさらい

まずは個人事業主の所得税の計算方法をおさらいしましょう。

所得税の計算式
収入 − 必要経費各種控除 = 課税所得金額
課税所得金額 × 税率 − 控除額 − 税額控除額 = 所得税額
>> 所得税の計算についてもっと詳しく

所得税はこのように算出するので、納税額を減らすためには、必要経費や各種控除を増やすのが有効です。住民税にも、この必要経費や所得控除が影響します。

このページでは、前半は必要経費を増やす方法、後半は所得控除を増やす方法を紹介しています。

経営セーフティ共済に加入する - 必要経費

掛金月額計上方法合計限度額
5,000円~200,000円全額経費800万円(40ヶ月分)

まず、まとまった金額を全額その年の経費に計上できるのがセーフティ共済です。 正確には中小企業倒産防止共済という名称で、経営セーフティ共済・セーフティ共済などとも呼ばれます。

月額掛金の上限は20万円。払い込んだ月数分、その年の経費にすることができます。 翌年1年分の前払い分もその年の経費にすることができ、 最初の年は最大で23ヶ月分、金額にして最高460万円をその年の経費にすることができます。 掛金総額の上限は800万円(40ヶ月分)です。

解約すれば、掛けた金額が解約手当金として戻ってきます。 ただし、納付月数が40ヶ月経つまでに解約すると100%戻ってこないので、その点は注意が必要です。 また、解約手当金は収入として扱います。つまり、掛金を払う際には経費として計上できるが、 戻すときは個人事業の所得が増すことになり、課税を繰り延べることになるわけです。

フリーランスの方は、自分の働き加減によって所得が多くなる年もあれば芳しくない年もあるかと思いますので、 もしもの時の備えとして資金をプールしておくという発想で使える共済です。 「向こう3~4年はしっかり利益が出そうだが、それ以降は先行き不透明」というような場合に、 中長期的なリスクを軽減しながら行える節税策です。

この共済の本来の目的は、取引先が倒産してしまった場合にスピーディな融資を行うことで、 倒産の連鎖を防ぐというものでしたが、節税目的でも用いることができます。 中小企業だけでなく、個人事業主も加入できます。 将来的に法人化する場合には、会社へ契約を引き継ぐこともできます。
>> 経営セーフティ共済の詳細はこちら

少額減価償却資産の特例を利用する - 必要経費

10万円以上で長く使えるものは、まず資産に計上し、減価償却費として 毎年少しずつ経費を計上することになります。その年の経費として一括で処理することができません。

しかし、取得価額30万円未満のものであれば、一括でその年の経費にすることもできます。 これを「少額減価償却資産の特例」と呼びます。この特例を適用できるのは青色申告者だけです。

また20万円未満のものであれば、3年で償却する「一括償却資産」として計上することもできます。 高額資産の計上方法については、こちらにまとめています。 >> 高額資産の計上方法まとめ

短期前払費用の特例を利用する - 必要経費

「前払費用」というのは翌期の経費の前払いなので、原則的には当期の必要経費としては参入できません。 しかし、一定の要件を満たした前払費用については、当期の必要経費として計上することができます (短期前払費用の特例)。

サービスの対価として前払いした費用を当期の必要経費として認められるには、以下全ての要件を満たす必要があります。

  • 当期中に支払いが済み、支払った日から1年以内に提供を受けるサービス
  • 一定の契約に従って、継続的にサービスを受ける(等質等量のサービス)
  • 今期だけでなく、今後も毎年継続して前払いをする
  • 支払ったものが収益と対応するものではないこと(売上原価となる費用などはNG)
  • 支払い額がそこまで大きくなく、重要性の低いもの

例えば、インターネットのレンタルサーバー料金を月契約から年契約に変更して決算月に支払ったり、 保険料や事務所の家賃を年払い契約に変更して、向こう1年分を支払って経費にすることができます。

ただし、上記の要件にもある通り、一度年払いにすると毎年継続して同じ計上方法をとる必要があるので注意しましょう。 毎年コロコロと計上方法を変更することはできません。(節税効果があるのは最初の1回目だけということ) 来期以降も同様の支払い方で、資金繰りに問題がないかを検討して決める必要があります。

ハイクラスなビジネスカードを所持する - 必要経費

ハイクラスのビジネスカードを利用するのは「利益が多いので、税金を納めるぐらいならなんとか良い経費の使い方を見つけたい」という事業主におすすめです。

ビジネスカードとは、事業用途で使うクレジットカードのこと。この年会費は、当然ながら必要経費に計上できます。で、ゴールドランクやプラチナランクのビジネスカードは、充実した特典を用意しています。

ゴールドランク・プラチナランクカードの特典例

  • 国内、海外の空港ラウンジを無料で利用できるサービス
  • コンシェルジュサービス(コンシェルジュにチケットやレストランの手配などを頼める)
  • 2名以上の提携レストラン予約で1名分が無料になる
  • 生活用品やコレクションアイテム等のプレゼント
  • 国内外の旅行における充実した傷害保険

これらの特典は、事業主がプライベートで旅行や食事をするときにも利用できるのです。例えば、旅行保険は、プライベートで旅行をしている時にも適用されます。しかも、高ランクカードの保険条件は自動付帯のものが多いので、旅行中にカードを所持しているだけで保険の対象になります。

つまり「カード年会費を経費で落としながら、事業主のプライベートシーンにおいても特典を享受できる」という状態になるわけです。高ランクなカードは見栄えも良いですし、余った利益を活用したいという事業主におすすめの一策です。

>> 優待特典が充実しているビジネスカード
>> 個人事業主・中小企業のビジネスカード一覧

青色申告特別控除 - 所得控除

ここからは所得控除によって節税する方法を説明します。まずは、個人事業主にとって基本のキとも言える「青色申告特別控除」です。厳密に言うと、青色申告特別控除は「所得控除」とは別モノですが、同様の節税効果があります。

青色申告特別控除は、青色申告者だけが適用できる控除です。クリアする要件に応じて、10万円 or 55万円 or 65万円が所得から差し引かれます。55万円・65万円控除を受けるためには、「複式簿記」による帳簿づけが必須です。
>> 青色申告の記帳方式について

なお、要件は「複式簿記」だけではありません。たとえば、55万円控除を受けるためには、以下3つの要件を全て満たす必要があります。

  1. 不動産所得・あるいは事業所得を得る事業を営んでいること
  2. 正規の簿記(複式簿記)で記帳していること
  3. これらに基づいて、確定申告の必要書類を法定申告期限内に提出すること

また、65万円控除を受けるためには、上記の要件を満たしたうえで「電子申告」か「電子帳簿保存」を実施しなくてはなりません。これは、2020年分(令和2年分)の確定申告から新たに設けられた要件です。
>> 青色申告特別控除の要件について詳しく

小規模企業共済に加入する - 所得控除

掛金月額控除の内容合計限度額
1,000円~70,000円全額控除
小規模企業共済等掛金
満期や満額なし

小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の役員が共済金を積み立てて、 退職時などにそれまで積み立てた共済金を受け取れる共済制度のことです。

掛金は月額で最高7万円まで、年間にして84万円です。 「小規模企業共済等掛金」として掛金の全額が所得控除されるので、節税金額としては大きいです。

解約をすると、掛けたお金が解約手当金として戻ってきます。 ただし、掛金納付月数が240ヶ月(20年)以上にならないと解約手当金が100%以上にならないので、 長期で継続的にお金を積み立てていける個人事業主に向いたものです。 フリーランスの方が各年度で節税をしながら、老後のためを思って国民年金とは別に少しずつお金を貯めるようなイメージです。

ちなみに、小規模企業共済にかぎらず、控除のために支払った金額は、個人事業の帳簿に記帳する必要はありません。 確定申告書に控除額を記入して、支払いの証明書を添付すればOKです。
>> 小規模企業共済の詳細はこちら

個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入する - 所得控除

掛金月額控除の内容加入要件
5,000円~68,000円全額控除
小規模企業共済等掛金
20歳〜60歳未満

確定拠出年金とは、公的年金に加えて給付を受けられる私的年金のひとつです。 国民年金基金のように、国民年金の上乗せとなる私的年金で、日本版401K・DCとも呼ばれます。

確定拠出年金は、企業型と個人型の2種類があります。 個人事業主は、個人型に入れます。この個人型確定拠出年金は、親しみやすくするためにiDeCo(イデコ)という通称がつけられています。

個人事業主の場合、掛金は月額で最高6万8,000円、年額にして81万6,000円です。 こちらも小規模企業共済と同じく、全額を所得控除できますが、60歳まで掛金を引き出せないというデメリットがあります。 こちらも、長期でお金を積み立てていける方のための制度です。

個人事業主は、20歳〜60歳未満の方であれば加入できます。 (厚生年金に入っていれば20歳未満でも加入できますが、個人事業主の場合は当てはまりません)

>> iDeCo 3つのメリット - SBI証券

生命保険・介護医療保険・個人年金に加入する - 所得控除

掛金月額控除の内容備考
任意それぞれ最高4万円控除
生命保険料控除
4万円 + 4万円 + 4万円
= 最高12万円

ここで紹介する生命保険、介護医療保険、個人年金は、生命保険料控除として、それぞれ最大で年間4万円控除されます。 生命保険4万円、介護医療保険4万円、個人年金4万円で、合計最大12万円です。 これまでに紹介してきた所得控除の中では少額ですね。

今から加入する方は、それぞれ以下のような形で控除を受けることができます。 例えば年間の支払い保険料が1万8,000円の場合は、1万8,000円が全額控除されます。 しかし、年間で8万円以上保険料を支払う場合は、いくら多くても控除額は4万円となります。

年間の支払保険料等控除額
20,000円以下全額
20,000円 ~ 40,000円支払保険料等 × 50% + 10,000円
40,000円 ~ 80,000円支払保険料等 × 25% + 20,000円
80,000円超一律40,000円

生命保険料控除の対象になる、生命保険・介護医療保険・個人年金保険は、 いずれも納税者が任意で保険会社と契約した一定の保険のことを指します。 (国民年金や国民健康保険料はこれに該当しません。これらは社会保険料控除に当てはまります。)

>> 生命保険料控除の詳細はこちら

社会保険料のまとめ払い - 所得控除

国民年金保険料を納めることができる期間は、保険料の納期限(納付対象月の翌月末)から2年間です。この範囲で、過去に払いそびれていた国民年金があれば、それをまとめて支払うことで全て本年分の所得控除にすることができます。

また、2014年(平成26年)4月以降、国民年金保険料の「2年前納」制度が始まりました。 この前納した2年分の国民年金保険料の全額を、その支払った年分の社会保険料控除額に加えることもできます。 納税者は、①納めた年に全額控除する方法と、②各年分の保険料に相当する額を各年において控除する方法、 どちらかを選択することができます。

ちなみに、国民年金の5年後納制度というものもありましたが、平成30年9月30日をもって終了しました。

>> 社会保険料控除について - 国民年金と国民健康保険

ふるさと納税を活用する - 所得控除

ふるさと納税は、節税というよりは、利益が多く出た事業主がおみやげを受け取れるような制度です。 ふるさと納税の返礼品は非常に豊富なラインナップになっているので、所得が多い方はこの制度を利用しなければ損とも言えます。 ふるさと納税として支払ったお金は、寄附金控除として所得控除の対象となります。

例えば、所得が500万円になった個人事業主が、選んだ地域に50,000円の寄付をして、実質2,000円の負担で返礼品などを受け取るというようなことが可能です。この返礼品の種類が幅広く、食料品から家具、旅行券、家電製品まで、しっかり探せば必ず欲しい物が見つかるという程に充実しています。

もちろん、地域振興・活性化がメインテーマですので、この趣旨に沿って応援したいふるさとに寄付するのも良いでしょう。 ちなみに、「自分の地元にしか寄付できない」と勘違いしている方もいますが、寄付先の自治体は自分で選ぶことができます。 東京の人が沖縄の自治体に寄付をし、泡盛を受け取ってよいわけです。

ふるなび」や「ふるさとチョイス」という人気サイトで、ふるさと納税の返礼品を確認しつつ、寄附金控除に対応したふるさと納税ができます。

専門家への節税相談について


ここまで、主に利益がたくさん出た場合に節税に効く方法を紹介しました。前述の通り、個々の状況に合った最適な対応をするためには、 税理士やファイナンシャルプランナー(FP)に相談をするのがおすすめです。

例えばFPは、節税に効く保険契約などが成立した場合に仲介料を得るのが仕事です。 なので、節税や決算対策の相談は無料で受けてもらえます。 仲介が入るからといって利用者が料金面で損をすることもありません。

>> 節税案のアドバイスや確定申告を税理士にお願いする場合について
>> 個人事業主のビジネスゴールドカード比較 - 事業用カードで経費決済
>> 個人事業主の所得控除一覧
>> 個人事業主の税金まとめ - 主な税金の納付時期や計算方法について